知られざる地球の不思議さと手つかずの大自然を肌で感じる究極のエコツアー。地球の鼓動が聞こえる大地「南極」、
イヌイットの住民達、野生動物との出会いがある「北極」。何かを感じさせてくれる極地旅行。
個人旅行の旅だからこそ、他では味わえない感動が!

「南極観光のいま」と「守るべき未来」

「南極をテーマパークにしてはいけない」。ポーラー・ラティチュード社(PL社)の創設者兼社長ジョン・マッキオン氏が語る「責任ある観光のあり方」、そして南極という「特別な場所に込めた想い」をご紹介します。極地旅行を扱う私たちだからこそ伝えたい声です。

聞き手:マーティン・ブルックス氏   文:パトリック・ティラード氏
※2019年、シャクルトン社はポーラー・ラティチュード社と提携し、「シャクルトン・レガシー・ジャケット」を共同開発しました。

南極をテーマパークにしてはいけない

南極観光イメージ

「南極は地球上でも最も特別な場所のひとつです。とてもたくましい一面を持ちながら、同時に非常に繊細でもある。だからこそ、私たちは細心の注意を払わなければならないのです」

ジョン・マッキオン氏は、2010年の設立以来、小型船による南極冒険クルーズを運営してきたポーラー・ラティチュード社(PL社)の創設者です。彼にとって、南極を初めて訪れる人々にこの地を紹介することは、彼にとって情熱そのものです。

しかし、観光がこの大陸の環境に与える影響をめぐる議論が続く中で、マッキオン氏は「人々を南極へ連れて行くことの利点」と「もたらされる不利益」との間にある“紙一重の境界” に常に細心の注意を払っています。

「人々の旅を非難してはいけないと思うのです」と彼は強調します。

「昨年ベネチアを訪れたことを嬉しそうに話す人が、次の瞬間には『南極には行くべきではない。壊れやすいから』と言うのを聞くと、いつも少し違和感を覚えます。ベネチアは観光客に“食い尽くされつつある”のに、です。
私が人々を南極に連れて行くのは、そこを愛し、守るために声を上げてくれる“味方”を増やすことだと思っています。誰も、見たことも経験したこともないもののためには戦わないでしょう。ですから、この特別な場所を責任ある形で多くの人々に体験してもらうことができれば、より大きな支持を築けると思うのです」

南極観光イメージ

彼自身の初めての南極との出会いは、偶然の産物だったと言っています。

「当時私はカリフォルニアに住んでいて、サファリ会社で働いていました。友人とランチをしていたとき、彼が『ある極地旅行の会社が社長を探している』と言ったのです。応募してみたらどうかと勧められ、電話をかけてみました。すると相手はこう言ったのです——『明日は何をしている?』って。普通の一日になると思っていたら、『明日ロンドンで会議があるんだけど来ない?』と言われて。行ってみたら、その場で採用されました」

興味深いことに、彼のその後の人生を左右することになるにもかかわらず、最初の南極訪問は一目惚れではなかったそうです。

「初めて南極に行ったとき、なぜそこが誰もが行きたい場所ではないのかがよく分かりました。でも二度目、三度目と行くうちに、少しずつこの不思議な魅力と、なぜ人々がここを訪れたいのかという理由がはっきりと見えてきたのです。それは私の人生の大きな転機のひとつになりました」

もうひとつの転機は、自分が勤めていた会社がいくつもの買収を経て大企業になったときに訪れました。

「次第に、その会社が利益を最優先する組織になっていくのを感じたのです。少しずつ、魂を吸い取られていくようでした。私にとって“誇りを持てる仕事をすること”それが根本的な信念でした。だから、私たちの何人かと船を手に入れて、自分たちの信じるやり方でやっていこうと決めたのです」

南極観光イメージ

南極観光のあり方は、彼が通い始めた頃に比べて大きく変わったといいます。

「20年前の極地旅行といえば、小型船であまり快適とは言えない、がたがたした古い船で行くものでした。乗客も40〜50人程度と少なく、今よりも本格派の人たちが多かったですね。多少の不便さや過酷さも、その魅力の一部だったんです。でも今の旅行者は、もっと快適さを求めています。ドレーク海峡での揺れはできるだけ少なくしたいし、体験そのものは変わらなくても、帰ってくるのは暖かいベッドと快適なシャワー、できればサウナも、という感じです」

観光客が環境に与える直接的な影響という点でも、良い方向にも悪い方向にも変化が見られるといいます。「私が南極に行き始めた頃は、上陸がすべてでした」と彼は振り返ります。

「熱心なエクスペディションリーダーの中には、1日に3回の上陸を詰め込もうとする人もいて、船は次の上陸地点へと競うように走り回っていました。でも、今ではそうしたやり方は終わりを迎えています。理由はいくつもありますが、最も大きいのは上陸地点の環境への配慮です。今では、エクスカーションという考え方に変わっていて、活動の多くが陸上ではなく海上で行われるようになってきています」 

しかし、こうした新しいアクティビティの中には、特に懸念を呼んでいるものもあります。

「最近では、ヘリコプターや潜水艇といったものが導入され始めています。ある時は、ジェットスキーを南極に持ち込みたいという要望までありました。こうした方向に進み始めると、“環境に配慮した存在”であり続けることがどんどん難しくなっていくと思います」

マッキオン氏は、船自体が環境に与える影響についても率直に語っています。

「人々が二酸化炭素排出のコストを懸念するのは、まったくその通りです。南極への訪問の約95%は、燃料を消費する船で半島地域へ行くものです。ですから業界全体が、いかに炭素排出を減らすかに取り組んでいます。実際に大きな変化が見られるようになるまでには、おそらく10年ほどかかるでしょう。
今ではハイブリッド船の開発も進んでいます。私たち自身も燃料の使用量を最小限に抑える方法を模索しており、ここ1年でおよそ20%の削減に成功しました」

南極観光イメージ

マッキオン氏と彼の会社は、乗客に南極への深い愛情と魅力を抱かせることを誇りとしており、現在、業界全体で今後どのように進むべきかを体系的に検証する新たな取り組みの一端を担っています。

「私たちはIAATO(国際南極ツアーオペレター協会)およびその加盟各社とともに、観光が南極に与える影響についての独立調査に資金を提供しています。この調査は数年単位の長期的なプロジェクトです」と彼は語ります。

「こうして活動がまったく行われない年というのは、非常に興味深い機会でもあります。私たちは“どんな影響が生じ得るのか”、そして“それをどう測定すべきか”を見極めようとしています。さらに、“どうすればそれを軽減、あるいは回避できるのか”という問いにも取り組んでいます。
実際のところ、観光が負の影響をもたらしているのかどうか、まだ確かなことは分かっていません。私としては、業界全体の理念として、“痕跡を残さない”を超え、“影響すら残さない”を目指すべきだと考えています」

彼のアプローチの核心にあるのは「敬意」の重要性です。それは、訪問者がこの大陸に及ぼす長期的な影響への理解だけでなく、この場所を正しく認識しなければ自らに差し迫る危険をもたらしかねないということへの理解でもあります。訪問者自身が直面する危険”に対する敬意でもあります。
「これは多くの意味で“矛盾”をはらんだ場所です」と彼は締めくくります。

「いま、乗客のひとりが送ってくれた航海記の本を手にしています。その表紙はまったく汚れのない、美しい南極の姿を写しています。
しかし私は何十回も南極に行っているので知っています。そこは一瞬で姿を変え、荒々しく、命を脅かすほどの世界に変わることがあるということを。
この“ありのままの自然の美しさ”こそが、この場所を特別なものにしているのです。だからこそ、私たちは決してここを“テーマパーク”にしてはいけないのです」

コース紹介


注)すべてのコースは、海外主催会社が催行する旅行ツアーとなります。お申込みにあたり、自己責任の上でのご参加となりますことご承知おきください。