「タロ・ジロ」にまつわる話 (3)なぜ犬たちは置き去りにされたのか?

南極よ、さようなら!
お前はやはり冷たい大陸であった。
人間の力ではどうすることも出来ないものを多分に持った魅力ある大陸であった。
さようなら、オングル島!
そして15頭の犬たちよ!美しい夢を結んでくれたまえ。
お前たちの生命がもしそのまま昭和基地に消えるとも お前たちの名誉は永遠に歴史に輝くであろう。
さようなら、さようなら!
「リキ」「クロ」「シロ」「ゴロ」「アカ」「ポチ」「タロ」「ジロ」「デリー」「風連」「ジッヤク」「紋別」「アンコ」「ペス」「モク」。 
さようなら!

考えてみればこの「さようなら」を成功した村山隊に送るべく努力したのだったのに。
いま 私は私たちの仲間、15頭の犬たちに「さようなら」と叫ばねばならないとは…。

お前たちは偉大だった。君たちは立派だった。よく働いた。
だのに、そのお前たちへの最後のはなむけが置き去りとは、私は気も狂わんばかりだ。
さようなら。さようなら!さようなら。さようなら。

 

上は拙著「犬たちの南極」(中公文庫)の最終ページ。時は1958年2月24日。第2次越冬を「断念」した南極観測隊が「帰国の途につく」時の一節です。
映画「南極物語」では高倉健が洗面所の鏡に向かって「ひげ剃り」を投げつけるシーン。私は風呂に入って瞑想にふっけていました。

「お天気が極めて悪かった」「最後まで懸命な努力をした」「船の燃料がそれまで」「どうすることも出来なっかった」など…色々な表現で「弁解」された。
世間では一応それで「了解」された。政府も後援団体もそれ以上の「追求」はしませんでした。少数の愛犬家たちを除いては。

 

宗谷の甲板にて先導犬「リキ」を洗う大塚正雄隊員。後ろは「比布のクマ」しかし いったい真実はどうだったのでしょうか?
公式報告はもとより、他の多くの著書でも「真実」の分析・研究はなされていません。私の著書(前出)でも 余り掘り下げて議論していないのです。
私は いつかはもっと掘り下げてこの問題を検討してみたいと思っています。その一端をここに書き記して置きます。以下は私の個人的意見として読んで戴きたい。

(写真)宗谷の甲板にて先導犬「リキ」を洗う大塚正雄隊員。後ろは「比布のクマ」

 

この問題は決して単純ではないのです。最初に知っておいて戴きたい事実が幾つかあります。その一つは「初期の隊員を以下の様に4大別する事が出来る」と言う事です。

  • 大学山岳部などのOBで「南極探検が大好きこの事業の初期の推進役となっている「登山家グループ」。
  • 一応上に属するが立場上又は自己防衛上、したに近い行動をする「中間グループ」。 
  •  一応登山・南極がすきだがそれより学問的開発に傾注する「学者グループ」。 
  •  「宗谷」の乗組員すなわち海上保安庁の役人でかなり杓子定規な所のある「船員グループ」。

です。

もう一つの事実は文部省管轄の観測隊永田隊長と海上保安庁管轄の松本「宗谷」船長とが同格で、命令系統に上下が無いと言う事です。
これはいわゆる「日本的デモクラシー」の落とし子で過去の南極探検史上非常に珍しい日本式「双頭指揮」です。
これらの各グループ各命令系統がそれぞれの立場に立って各々の利害を考慮して色々な意見を出すのだから結論を出すのに時間が掛かるのです。
要するに日本国内での多くの集団と同じ形です。

もう一つ忘れてならない事実があります。 
それは、近くにアメリカ砕氷艦「バートンアイランド」がいたのです。
これは私たち第一次越冬隊11名を救援する任務を帯びて来てくれたのです。何故これがそこに居たかについてはいずれ述べます。
このアメリカ砕氷艦が懸命な努力をしてくれました。それによって「宗谷」の行動が可成り左右されるのです。

 

南極大陸に置き去りにされた犬の一匹「ポチ」ここまで書いて来たら賢明な読者は「ウン」とうなずかれる事でしょう。
そうです、あなたの想像は正しいのです。
要するに「何時までたっても結論がでなくて…」と言う事が日本社会には余りにも多すぎるのです。そして最後は「xx長一任」となり、「xx長」は自分及び自分の取り巻きの利益を考慮した独断的決定をするのです。

(写真)南極大陸に置き去りにされた「ポチ」

あの時私たち「登山家グループ」は可成り強い意見として「少人数での越冬は実行可能」と提言しました。ところが「学者グループ」は「研究資材が運び込まれないのでは越冬の意味が無い」とこれを一蹴しました。
お天気は確かに最悪でした。「宗谷」は船が「傷つく」事を極度に恐れるのです。そして「最後の日」になってしまいました。

私個人的には あの時のオペレーションは大失敗だったと思っております。もう少し早く「結論」を出して実行しておれば、小さいながら第二次越冬隊を成立させ、犬たちも再度の活躍が出来たと信じています。

 

菊池 徹 (1996.03.16)
  

コース紹介

南極旅行:コース一覧        北極旅行:コース一覧
注)すべてのコースは、海外主催会社が催行する旅行ツアーとなります。お申込みにあたり、自己責任の上でのご参加となりますことご承知おきください。