「タロ・ジロ」にまつわる話 (2)なぜ文部省特選?「南極物語」

映画「南極物語」が完成間近な頃、蔵原惟善監督がこれを「文部省推薦」にしてもらうと言い出したのです。
私はその話を聞いた時「大丈夫な?」と思いました。なぜかと言えば文部省は「犬ぞり」も「第1次越冬隊」も嫌いだったのです。
ところが結果は「推薦」どころか「特選」をくれたのです。

 

お影さまで、その映画は史上最高の観客数を呼びました。私の予測は間違いでした。
いったい何が起こったのでしょう?

 

南極大陸へ挑む宗谷そもそも私たちが「南極行」を夢見ていた頃は「南極探検」と言う呼び方をしていたのです。
ところが 文部省・学術会議・学会関係では始めから「南極地域観測」と言う呼び方をしており、いよいよ国家予算がついた時「探検」と呼んではいけないと言い出したのです。
そして「観測」と呼ぶ様に「指導」してしまったのです。
私たちにはかなりの抵抗があったのですが、どうすることも出来ません。
そのお影で今でも「南極地域観測隊」と呼んでいるのです。
しかし私は今でも「探検」と「観測」とは違うと思っていますし、私たちの「第一次越冬」や「犬ぞり」は「探検」だったと信じています。

(写真)宗谷はインド洋を南下 一路南極へ。犬たちは甲板生活を楽しむ

 

という訳で、文部省は「探検」は嫌いなのです。従ってその時の「犬ぞり部門」はおろか「第1次越冬隊」の経費は文部省経由の国家予算からは全く支払われてはいません。(後ではいくらか出たとの事です) 
つまり、文部省はこれらに予算をくれなかったのです。
幸い朝日新聞主催の南極探検後援会が全国募金してくれた民間資金がありましたので、これを使かわせてもらいました。 

 

西堀栄三郎南極越冬隊長第1次隊出発の1956年11月8日の新聞にも「越冬」とは一語も出ていません。
つまりその時点において「第1次越冬」は正式には許可されていなかったのです。
すなはち「越冬」はまだ「認知」されていなかったのです。
私たちは西堀さんを中心に「秘かに」事を運んでいたのです。
そうしなければ、つまり文部省の「指導」どうりでは「探検」は出来なかったのです。
要するに「第1次越冬隊」や「犬ぞり」は西堀越冬隊長の「私生児」だったと言えます。
その「第1次越冬」中の「犬ぞり」の活躍は予想以上のものがありました。そして段々と「認知」されては来ました。
その上「タロとジロが生きていた」というニュースは大変な社会的影響を及ぼしました。タロとジロが国家事業の「南極観測」を大いに宣伝してくれたのです。

(写真)西堀栄三郎越冬隊長。 通称:オジイチャン

 

一般に政府のやっている事は「宣伝」をしないから素晴らしい事をしていても、国民の総てが知らない場合が多いのです。唯一つ「南極観測」だけは知らない人が無いくらい周知の事業となってしまいました。
これはタロとジロのおかげなのです。
それでも政府はタロとジロに感謝の意を表示した事はありませんでした。
つまり 依然として「犬ぞり」部門は「南極観測事業」の「ママ子」的存在であったのです。そして今でもそうです。 

 

映画「南極物語」は「素晴らしい映画」です。しかし決して文部省の言う「文化映画」ではありません。
既に大部分の日本人が熟知している過去の歴史的事実を出来るだけ忠実にタンタンと再現したに過ぎないのです。勿論その映画製作技術の高級性や製作作業の困難性は最高級に評価されて良いものなのです。
画面は明朗で軽快であり、犬と人間の再会シーンは総ての観客の涙をさそいました。それは到底、文部省の好きな「暗いイメージ」の文化映画ではありません。 
それなのに、そんな映画に文部省は自発的に「特選」をくれたのです。

 

なぜ文部省は映画「南極物語」鑑賞を児童にすすめたのでしょうか?
あの映画をみて児童はどう影響されると考えたのでしょうか?
どんな点に教育的価値を認めたのでしょう?
どう考えても、あの映画の内容の「第1次越冬」と「犬ぞり」関係は文部省の「嫌い」だつた事なのに。

 

一般的に言って文部省の教育方針は「探検志向」を否定しているものです。
「探検」の持つ4要素、すなはち

  • 「自立性」 自分自身で行動する事も
  • 「危険性」 危険を承知で行動する事も
  • 「探求性」 歴史的に新しい事を敢行する事も
  • 「貢献性」 社会に貢献するために努力する事も

総て否定する事を児童・学生に「指導」しているのです。どう考えても文部省は「探検志向」を好きだとは思えません。
ではなぜ「南極物語」を「特選」としたのでしょう?

 

私はこう考えました。
つまり文部省の役人と言えども、個人的にはかなり「探検志向」を持っている人がいるのです。
ところが日本の官庁組織に入ってしまうとそれを表に出す事が出来なくなってしまうのです。そして心にもなく「文部省的指導」の鬼となってしまうのです。
そんな役人が映画「南極物語」を観たのです。
そして自分のしている普段の言動がいかに「人間味の無い」事かにに気づいたのです。つまり「良心の呵責に絶えかねて」しまったのですね。早速「特選」を出したのでしょう。いかにあの映画が素晴らしいかを物がったております。 
有り難い事でした。

 

菊池 徹


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